東京地方裁判所 昭和42年(ワ)319号 判決
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〔判決理由〕一 (事故の発生)
請求原因第一項の事実は当事者間に争がない。
編注 一、(事故の発生)
訴外吉田元(以下訴外元と略称)は、次の交通事故によつて死亡した。
(一) 発生時 昭和四一年九月四日午後七時五〇分頃
(二) 発生地 神奈川県茅ケ崎一二、八九三番地先路上
(三) 被告車 貨物自動車(練馬一い一六五〇号)
運転者 被告 小山富士雄(以下被告小山と略称)
(四) 原告車 普通貨物自動車(品川四は七九二〇号)
運転者・被害者 訴外元
(五) 態様 正面衝突
(六) 被害者訴外元は事故間もなく死亡した
二 (責任原因)
(一) 被告会社が、本件事故当時被告車を自己のため運行の用に供していたことは当事者側に争がない。
(二) 次に、被告小山の過失の有無について判断する。
<証拠>によれば、本件事故現場は幅員11.2米で歩車道の区別のないアスファルト舗装の平坦な直線道路であり、速度制限の規制はなく、街灯もあつて見透しはよいこと、実況見分の際被告車のスリツプ痕は20.8米のものがあつたが原告車のスリツプ痕は認められなかつたこと、被告車には、右前車輪泥除けの前部、後部、右後車輪前のバツテリーカバー、右後車輪泥除け前部に凹損があり、原告車は、前部バンパー、前照灯、左右の前輪泥除け、ボンネツト、左側ドアーを含む車両の前部が大破しエンジン部も破損したことが認められる。右事実および<証拠>を総合すると、原告車の右前部が被告車の右前輪泥除け前部に衝突し、次いで原告車は左に廻転して原告車の前部全体が被告車の右側に接触しその右後輪前のバツテリーと右後輪泥除け前部を凹ませたことが認められる。証人石永憲司は、「スリツプし始めた頃私は前方に進行中の被告車を認め、スリツプして衝突するまでの時間は二ないし三秒のように思います。」「衝突地点の手前二〇ないし二五米あたりでブレーキをかけ衝突するまでスリツプしたのです。」と証言しているが、もし証言どおりだとすれば、原告車が斜め右前方を向いたままスリツプしている状態は持続していることとなり、そこえ被告車が衝突することになる筈で、その場合には被告車の右前部が原告車の前部に衝突することになり前記認定の如き原告車と被告車の破損とは異つた破損状況とならなければならないこととなるのみならず、前記の如く被告車のスリツプ痕があるにも拘らず原告車のスリツプ痕が認められないことからも、証人石永憲司の右証言は措信できない。これに対して、被告小山富士雄本人尋問の結果(第一、二回)の「被害車をはじめて認めたのは三四ないし三五米先で、――その頃被害車は普通に走つていました。それで私としても普通にすれ違うものと思つていました。ところが両車の差が五ないし六米になつた頃、突然被害車がセンターラインを越えた」旨の供述は前記認定事実と矛盾するところがなく、右供述は真実を語つているものと認められる。
右認定事実によれば、被告小山としとは、原告車を避ける余裕はなく瞬間的に衝突したものと認められ、同被告に過失はないというべきである。
なお、原告は被告車は時速約七〇粁の速度であつたと主張するが、証人石永憲司の証言も「事故地点以前での対向車線上の車は殆ど全部といつていいぐらい相当の速度を出し、すれちがうときうなつていました。」というに止まり、右証言によって右原告主張を認めることはできず、他に右主張を証明する証拠はない。のみならず、被告車の速度が時速七〇粁であれ時速四五粁前後であれ、前記認定事情のもとでは、人間の反能時間、自動車の制動機能を考慮すると被告小山としとは原告車を避けることはできなかつたものと認められるから、仮に速度違反があつたとしても本件事故と因果関係は認められない。
(三) そこで、被告会社の免責の抗弁について判断する。
被告小山に過失のないことに右に認定したとおりである。
次に、訴外元の過失について判断する。本件現場付近の道路がアスファルト舗装であることは前記認定のとおりであり、<証拠>によれば事故当時は小雨で道路は濡れていたことが認められ、したがつて、スリツプを起しやすい状態であつたことが認められる。ところで、<証拠>によれば、原告車は時速約四五粁が、原告車とその前車との車間距離は五ないし六米であつたが、事故現場付近に来たとき前車がブレーキをかけたので訴外元もブレーキをかけ追突を避けようとしとハンドルを右に切つたことが認められる。したがつて、訴外元は、雨で道路が濡れており、スリツプしやすい状態であつたにも拘らず、必要な車間距離を保たず、そのために追突を避けんがためにはハンドルを右に切らざるを得なかつたものというべく本件事故は訴外元の車間距離を保たなかつた過失によるものと認められる。
更に、被告車の構造、機能について判断するに、<証拠>によれば、被告車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたことが認められる。
したがつて、被告会社の免責の抗弁は理由がある。(篠田省二)